脉診流経絡治療(みゃくしんりゅうけいらくちりょう)は全身治療です
東洋医学と西洋医学の違い
西洋医学では血液検査、MRIなど組織的な変化を見つけて診断し病名を決めていきます。診断→病名→薬物または外科的処置というように診断の仕方がミクロ的であるため、治療の目的は局所に絞られます。結果、病名の数だけ薬が増えていくのです。
図のように、東洋医学では「証」(しょうまたはあかし)を決めることを診断としこれが治療の方針となります。証とは身体の置かれた状態を表現したものであり、病名と証とは必ずしも一致するものでありません。 診断の仕方がマクロ的であり症状を全体の歪みとして捉えます。症状が多いからといって症状の数だけ治療の量が増えることはありません。
ツボをつないでいくと経絡になる。
身体には無数のツボ(経穴)が存在し、その経穴をネットワーク状に結んでいるのが経絡です。人体には12の異なる経絡が存在します。
例えば「肝経」という経絡は足の親指にある大敦から始まり膝内側にある曲泉~生殖器~鼠蹊部~胸部までつながっています。
生殖機能に問題があって「肝経」の経絡を調整したい場合はその経絡上にある「曲泉」や「太衝」と呼ばれるツボにはりきゅうを施し、調整することで治療を行います。局所的に治療を行うものではなく、全身治療といわれるのは、このような方法をとるためです。
脉診流経絡治療の診断法
気の変動のみられる部分を東洋医学的な診断法(望診、聞診、問診、切診、腹診)によって5つある治療の方針から導きだします。
望診 : 視覚によって診察する方法です。顔色や肌の色を診ます。
聞診 : 聴覚によって音を聞き分け嗅覚によって臭いをかぎ分ける診察法。声の質や臭いを診ます。
問診 : 質問をして診察する方法。自覚的な症状を把握していきます。
切診 : 触覚によって診察する方法です。
腹診 : 腹部の皮膚の状態の診断、や手足や背部の皮膚面を手を使って観察する診断方法です。
脈診について
鍼治療を行うのに脈診はとても重要な診断法です。
現代医学における脈診は脈の速さ(脈拍数)のみで循環器の観察に重点をおいています。一方、経絡治療では脈状診と六部定位脈診があります。脈状診では脈の浮沈(浮いているか沈んでいるか)、遅数(遅いか速いか)、虚実(力があるかないか)、大小(大きいか小さいか)、滑濇(滑らかか渋っているか)などを観察します。六部定位脈診では左右6か所に当てた指の感覚から五臓六腑のバランス(陰陽虚実)を診断しています。
この六部定位脈診の結果とその他の診断(望診、聞診、問診、切診、腹診)の結果とあわせて証を決定します。
治療中の先生は脈の何をみているのでしょう。
術者は一回鍼をあてるごとに脈で確認しながら治療をしています。
脈の何を診ているのでしょう。
答え: 下記のように脈状診と六部定位脈診をして治療の状態を把握しています。
・脈状診
脈には以下のような状態が観察されます。
その脈が悪い状態から良い状へ変化しているか確認しているのです。
沈む>浮く、遅い>速い、緩い>硬い、滑らか>渋っている、小さい>大きい、実(力が充実している)>中くらい>虚(力がない)、など
(一般に硬ければ緩かく、速ければ遅く、浮いていれば沈み、渋っているものは滑らかに、虚実は中くらいが良いとされています。大小は体格によります)
刺鍼を進める中で硬い脈が柔らかくなったり、速い脈が落ちついてきます。
こうすることで敏感な方であれば呼吸しやすくなったり息が吸いやすくなったりと気持ちが楽になるのを感じることができます。
・六部定位脈診
左右6か所の脈から五臓六腑のバランス(陰陽虚実)が現れます。
例えば冷えと生理痛が主訴で腎虚証と診断された方では腎経の脈と肺経の脈の力が弱くなっています。
ここで腎経のツボである復溜穴に刺鍼すると腎経の脈が充実します。
つぎに肺経のツボである尺沢穴に刺鍼すると肺経の脈が充実します。
こうすることで経絡のバランスがととのい腎経の症状である冷えと生理痛が改善され易くなるのです。
五臓六腑の作用について
五臓六腑を陰陽に分けてその中を気(生命エネルギー)がバランスよく巡っていれば健康であり、何らかの病的因子によってバランスが崩れれば「病い」となりその支配領域に病苦が現れてくると考えます。 鍼灸師は脈診、望診、聞診、問診、切診、腹診からその変動経絡をとらえ調整すべきポイント(ツボ)にはりきゅうを施すことで経絡の調整を計っています。
五臓六腑の概念はもともと古代医学において行われた解剖に立脚する考え方です。東洋医学でいう臓腑は西洋医学でいう臓器とは概念が異なります。例えば脾は脾臓、肝は肝臓、腎は腎臓をさしているわけではありません。
五臓の役割
肝 : 魂を宿すところ。積極的な気や身体を動かす気力を収めています。弱ればクヨクヨし、亢じれば怒り叫ぶ。生殖作用にも関連があります。
脾 : 消化機能の中枢を担っています。ここが衰えればエネルギーの吸収がうまくいきません。例思い悩むことが多いと脾が虚となり食欲が落ちてきます。食欲、倦怠感に関連します。
腎 : 生まれながらにして授かったエネルギー(先天の原気)を収めているところ。浪費したり年を重なれば少なくなっていきます。生殖作用、生殖器、耳に関連する機能(聴力、耳鳴り)、平衡感覚(立ちくらみ、体の揺れ)、睡眠、水分代謝(むくみ、利尿)、体温調節(冷え、発熱)、頭の機能例不妊治療を続けていると腎の機能が低下し、冷えたり腰が痛くなります。
心 : 生命の源で、全身にエネルギーを廻らす働きをします。循環器(動悸)、言語の調節(舌のこわばり、しゃべりすぎる)、精神(うつ的症状)例喜びが少なく始終メソメソしている場合は心が虚ということです。
肺 : 外気(外界に存在する気)を取り入れ全身に廻らす働きをします。呼吸器関連(鼻、肺、気管、気管支)、皮膚、消化機能、精神(悲しみ)例鼻水(透明)、くしゃみ、尿漏れが続くときは肺が虚であるということです。
六腑の役割
胃 : 飲食物(水穀)を消化する場所。
小腸 : 胃と協力して栄養を吸収します。水を吸収して膀胱へ送ります。
大腸 : 穀物(水穀のうち穀)のカスが排せつされる場所。
胆 : 肝にある積極性を実現させる働きをもちます。
膀胱 : 小腸から送られた水をためておくところです。
三焦 : 尿の排泄と生殖を担当します。
病いと五臓との関係
病気はその脈のバランスが崩れたときに、臓腑の関連部位に症状となって表に出てきます。 たとえば、腎経の脈のバランスが崩れた時は生殖器や耳、腎機能に症状がでることが多く、その 反対側にある脾経にも影響して胃腸機能が乱れたりします。